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風の又三郎

高田三郎と又三郎と村の子供たち
 ひとつしかない教室で1年生から6年生が一緒に勉強する谷川の岸の小さな学校に、父親が鉱山の仕事をしている高田三郎が転校してくる。都会的ななりをしてきりりとした態度の三郎は、村の子供たちの眼に異邦人のように見える。子供たち(とくに4年生の嘉助)は、三郎が風の精の又三郎なのではないかと感じる。この物語では、三郎が学校にいた10日間の、村の子供たちと三郎の間のさまざまな感情の混じった微妙な関係が描かれている。

新学期の始まった日のおかしな転校生  夏休みが終わった9月1日の朝、登校してきた子供たちは、教室の1番前の席に見知らぬおかしな子供が座っているのに気づいて驚く。その子は赤い髪をして鼠いろのたぶだふの上着を着て、白い半ずぼんをはき赤い革の半靴というなりで、村の子供たちが教室の外に出てくるように言っても何も答えずきちんと座ったままだ。それで子供たちは「あいつは外国人だな」などと言いあう。「そのとき風がどうと吹いて来て教室のガラス戸はみんながたがた鳴り、学校のうしろの山の萱(かや)や栗の木はみんな変に青じろくなってゆれ」る。すると嘉助が「あゝわかったあいつは風の又三郎だぞ。」と言う。異邦人のように感じられる転校生の高田三郎と遠くから風をもたらし恐れと憧れの念を呼びおこす風の精とが、村の子供たちの心の中で結びつけられている。
専売局が管理するたばこの葉









三郎をせめる耕助










三郎を守る子供たち
 翌日からの村の子供たちと三郎の関係も、さまざまな要素が微妙に混じりあったものになる。9月5日には、耕助が自分が見つけた葡萄(ぶどう)蔓のある所にいかないかと嘉助を誘う。嘉助は三郎たちも誘っていっしょにでかける。その途中のたばこの畑で三郎が「何だい、此(こ)の葉は。」と専売局が厳しく管理しているたばこの葉を1枚むしってしまう。「専売局にうんと叱(しか)られるぞ。」と一郎が言うと、三郎は顔をまっ赤にして「おら知らないでとったんだい。」と怒ったように言う。耕助は自分が見つけた葡萄蔓の所に三郎まで連れていくのが面白くなかったので、もと通りにしろなどと三郎をせめる。困った三郎は木の根もとに葉を置いていく。その翌々日、授業の後で嘉助は三郎を誘って他の子供たちが遊びに行っている近くの川に行く。そのうち大人たちがやってきて発破で魚を気絶させる。子供たちは流れてきた魚をとって石で囲んだ小さな生洲(いけす)に入れ、木にのぼって休む。しばらくして、洋服を着てステッキをもった人がやってきて、子供たちの魚をステッキでかきまわしているのが見える。これは専売局の人だったので、子供たちは三郎がたばこの葉をむしったことが発覚したのかと緊張する。木の上で一郎が「みんな又三郎のごと囲んでろ」と三郎を隠そうとする。男は汚れた脚絆を洗うかのように浅瀬をいったりきたりしているので、一郎が音頭をとって皆で「あんまり川を濁すなよ、いつでも先生(せんせ)云ふでなぃか。」と叫んで男を追いやってしまう。この場面では、6年生の一郎が中心になって事情のわからない三郎を守っている。
去っていった三郎  9月12日の朝、一郎は又三郎の歌の夢で目がさめる。

 「どつどど どどうど どどうど どどう
 青いくるみも、吹きとばせ
 すつぱいくわりんも吹きとばせ
 どつどど どどうど どどうど どどう……」

 外に出ると強い風で栗の木が烈しくもまれている。一郎は胸がどかどかなって、嘉助と急いで学校に行き、三郎は父親の仕事の都合で他に移ってしまったことを知る。

ちくま文庫「宮沢賢治全集 7〜『風の又三郎』」より
賢治作品の
リズム
星や風、生き物からの贈り物としての詩、物語
異質な者に対して開かれた心
作品の多義性、重層性
登場人物
風、雨、雪・・・
踊り、祭、神々
賢治の作品世界
宮沢賢治の宇宙