山猫と別当

 そのとき、風がどうと吹いてきて、草はいちめん波だち、別当は、急にていねいなおじぎをしました。
 一郎はをかしいとおもつて、ふりかへつて見ますと、そこに山猫が、黄いろな陣羽織のやうなものを着て、緑いろの眼をまん円にして立ってゐました。
ちくま文庫「宮沢賢治全集 第8巻『どんぐりと山猫』P.22」

 「ハッハッハ。お前たちもポラーノの広場へ行きてえのか。」うしろで大きな声で笑ふものがゐました。
 「何だい、山猫の馬車別当め。」ミーロが云ひました。
 「三人で這ひまはって、あかりの数を数へてるんだな。はっはっは、」その足のまがった片眼の爺さんは上着のポケットに手を入れたまゝまた高くわらひました。
ちくま文庫「宮沢賢治全集 第7巻『ポラーノの広場』P.173」

 「それでは、文句はいままでのとほりにしませう。そこで今日のお礼ですが、あなたは黄金のどんぐり一升と、塩鮭のあたまと、どつちをおすきですか。」「黄金のどんぐりがすきです。」
 山猫は、鮭の頭でなくて、まあよかったといふやうに、早口に馬車別当に云ひました。
ちくま文庫「宮沢賢治全集 第8巻『どんぐりと山猫』P.27」


 山猫は「風がどうと吹く」とともに登場する。 風がどうと吹く
 山の住人である山猫からの最高の贈り物とは? 黄金のどんぐり
 一郎という名の男の子は、風の又三郎とも友達である。 又三郎