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異次元を旅するジョバンニの感情

異次元世界を旅するジョバンニの複雑な感情の流れ
 父親が北の海に出かけたまま消息がわからず母親は病気なので、学校が終わった後活版所で働かなければならないジョバンニは、他の子供たちからのけものにされがちだった。他の子供たちが川に遊びに出かけた銀河の祭りの夜、ジョバンニはひとりで丘に登り、草原に寝そべり星空を見上げているうちに眠ってしまう。そして、夢の中で、ジョバンニの気持ちをわかってくれる友達のカムパネルラとともに、銀河の夜空を走る鉄道に乗って旅することになる。 異次元の世界を旅するジョバンニの感情の流れも夢の中のような不可思議さをもち、さまざまな微妙な感情が混じりあったり、にわかに転調したりする。 これが「銀河鉄道の夜」のある意味での難しさの一因であるとともに、不思議な魅力の源でもある。

ジョバンニの歓喜と不安  まず、星空を走る鉄道の向かいの座席に座っているのがカムパネルラであることに気づいたところでは、「カムパルネラは、少し顔いろが青ざめて、どこか苦しいといふふうでした。するとジョバンニも、なんだかどこかに、何か忘れたものがあるといふやうな、をかしな気持ちがしてだまってしまひました。」という不安な感情が最初にくる。その後で、青白く光る銀河の岸の銀色のすすきが揺れるのを見て、カムパネルラが「おや、あの河原は月夜だらうか。」というのに対して、ジョバンニは「月夜でないよ。銀河だから光るんだよ。」と答えるが、その時にはこんどは、「まるではね上りたいくらゐ愉快になって、…高く高く星めぐりの口笛を吹きながら」という高揚した気持ちになる。
孤独なジョバンニにとってのカムパネラとの旅  星座や鉄道に強い憧れの気持ちをもつ孤独なジョバンニにとって、愛するカムパネルラと一緒に銀河鉄道で旅することができた時の気持ちが躍るような歓喜であるのは当然なのだ。
他界への乗物としての銀河鉄道  しかし、この銀河鉄道は、異次元をどこまでも旅することのできる乗り物であると同時に、死者を地上から他界に運ぶ列車でもある。そして、物語の最後にあきらかになるように、カムパネルラは友達を助けて川でおぼれて死に、他界に向かう途中だったのだ。こうしたいくつかのモチーフの重なりあいが、ジョバンニのさまざまな微妙な感情の混じりあいや転調と照応しているといえるだろう。

「コミュニタスとしての銀河鉄道の夜」を読む

ちくま文庫「宮沢賢治全集 7〜『銀河鉄道の夜』」より


科学と詩の出会い
子供から大人への過渡期の文学
作品の多義性、重層性
作品における倫理的探究
登場人物
賢治の作品世界
宮沢賢治の宇宙