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松井隼さんの思索数学
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『<解説> 広告媒体の到達率推定モデル』
*(2) 数学モデルによる到達回数分布の推定 5. 6. 7.

『<解説> 広告媒体の到達率推定モデル』
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『メソリンガムモデルとその周辺--松井メモ』
(1) メソリンガムモデル式及びその変形 1. 2.
『メソリンガムモデルとその周辺』
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<解説> 広告媒体の到達率推定モデル(2)

株式会社ビデオリサーチ 常務取締役  木戸 茂

1.5 パラメーター決定のためのデータ

 パラメータ、l,mを定めるためにはデータとして及びが必要であるが、これは通常2つの方法で求めることが多い。

方法1:広告の接触率及び2つの広告(時点)間の重複接触率のマトリックスから平均値を求める方法。(及びはこのマトリックスから平均値を求めるだけで算出される。)

(1) 
 は平均視聴率であるから、とり上げているN時点の視聴率Piから作成できる
   

(2) 
 はN時点のうちの任意の2時点の重複視聴率の平均であるから、あらゆる2時点の組合せについて重複視聴率Pijを実測して下図のマトリックスを埋めれば作成できる。
   

図3 重複マトリックス


現実にはテレビ、ラジオの時点は膨大になり、すべての組合せについてPijを計算しておくことは著しく不経済であるから、Pijを毎回実測によらないで推定する方法が必要である。

方法2:N回の出稿による接触回数の分布データそのものから平均値を求める方法。
この方法はテレビ番組の最初の2回ないし3回分の実測分布から13回分の到達状況を予測する場合などに使われる。同様に、雑誌などの広告計画では各ビークルの平均接触率及び平均重複接触率とビークル間ののデータがあれば下記の方法で計画回分の到達状況の予測が可能となる。

 (3)

 (4)
 
但し、回数i の分布比率をFiとする。

図4 接触回数の分布データ

(注) 0 < Fi < 1

1.6 接触回数分布推定の作業ステップ

 BBDモデルによって接触回数の分布及び到達率を推定するための作業ステップは、

(1) 出稿回数(時点数)のデータ入力
(2) @ 各出稿回(時点)の接触率及び二時点間の重複接触率のデータ入力
   A または、実測の接触回数分布からのデータ入力
(3) 平均接触率の計算及び二時点間平均重複接触率の計算
(4) モデルにインプットすべきパラメータの計算
(5) 接触回数分布のモデル計算

1.7 パラメーターの条件及び平均接触率、平均重複接触率の間の制約

モデルのベースとなっているβ分布のパラメーターl, mについてl>0, m>0とい う条件が課されている。(これはβ関数B(l ,m)の収束条件に他ならない。)回数 分布f(k)を求める時の積分はlがl+kになり、mがになるだけであるから収束の条件は常に満たされている。
 以上によってパラメーターl, mに課せられる条件は
          (1)
       (2)
の2式で表わされる。これに加えて、P1は平均接触率であるから常に
             (3)
をみたしていることを考慮すれば、(1),(2)より
            (4)
の制約が導かれることは明らかである。

<参考文献>
松井 隼 (作成年不明)「松井メモ:メソリンガムモデルとその周辺」、手稿、(電 子活字版:2003)
木戸 茂(2004)『広告マネジメント』朝倉書店。
Krugman, Herbert E. (1972),"Why Three Exposures May Be Enough," Journal of Advertising Research 12:6, pp.11-14.
Krugman, Herbert E. (1977),"Memory without Recall, Exposure without Perception," Journal of Advertising Research 17:4, pp.7-12.
Metheringham, R. (1964), "Measuring the Net Cumulative Coverage of a Print Campaign", Journal of Advertising Research, Vol.4, pp. 23-28.
注(1)
松井氏のこの分野への貢献の一つは高速かつ実用的な計算方法の開発とその数学的根拠を証明したことである。
尚、この解説文は「松井メモ」を参考に木戸(2004)の第3章を要約・加筆・修正したものである。

    
松井隼記念館運営委員会 fieldlabo@as.email.ne.jp